サックスプレーヤーフルート奏者菊地康正

サックスプレーヤーであり、フルート奏者でもある(KOSE)こと菊地康正の公式ホームページにようこそ。音楽を楽しみたい方のためにサックス道場、フルート道場も主催しています。

菊地康正のサックス入門

 


サックス奏者の菊地康正です。熟年のための超サックス入門というテーマで書いてくれとの要望をいただき、私の経験から参考になること書いてみたいと思います。私は現役のサックス奏者であるとともに、最近はサックス、フルートの教師として生徒を指導することが多くなっています。

小学生、高校生、大学生から60代までの方を自身の教室で常時60人以上教えていますが、最近とみに感じるのは40〜50代以上の愛好者が増えているということ。40歳を過ぎてから本当に初めて楽器を手にした超初心者の方はもちろん、10代、20代に一旦楽器に手を染めたにもかかわらず、仕事が忙しいなどの理由で時間が取れず、ようやく時間的にも経済的にも余裕ができたので習い始めるという方も多いようです。

音楽に限らず、習い事は頭の柔らかい子供のうちに始めるのが一番なのですが、中年、熟年になってから始めてもやり方によっては上達は不可能ではない…とだけ申し上げておきましょう。

さて、講座のタイトルが熟年のための超サックス入門ですから、当然対象は少なくても40代以上の中年、熟年の皆さんということになります。サックスを始められるからにはたぶん、今までに色々な音楽を聞いてきた経験がお有りでしょう。そしてその結果サックスを選んだということは、その音に魅力を感じているからにほかならないと思います。

管楽器のなかでも特にサックスは人間の肉声に近いといわれています。さらにジャズ・サックスの奏法は、人間の声の出せる色々な可能性…、単に美しい声だけではなく、しわがれ声(サブトーンといいます。代表的な奏者に、アート・ペッパー、ポール・デスモンド(as)スタン・ゲッツなどを挙げることができます)、ダミ声(声を出して音を濁らせる奏法、グロウルトーンといいます)なども完全に模倣することができます。できないのは言葉をしゃべることぐらいでしょう(!?)。

そしてここがポイントなのですが、聞くだけではなく練習して演奏してみようと思ったところが素晴らしいといえます。スポーツでも音楽でも何でもそうだけど、簡単に努力せず上達するということはありえないけど、きちんと先生に付くなりして正しい方法で少しずつ努力していくと、必ず上達していきます。

そして、今までは聞くだけだった素晴らしい音楽を、自分の手で、口で、体全体を使って演奏できたら、そしてそれを人に聞かせて感動を伝えることができたら素晴らしい体験になります。聞くだけの、あれは嫌い、これは好きといった無責任な立場から、良い音を出すのが、これほど大変なことだったのかと、世の中の演奏家の素晴らしさの裏にある努力のすごさの一片を感じてもらえれば幸いです。

さて今回の講座、熟年のための超サックス入門では、超初心者、またはその同等のレベルの人を対象に考えてみました。楽器の選び方、リード、マウスピース、などの選び方合わせ方、指使いなどは市販の教本などにも載っていますので、今回は割愛します。今回は最も基本となる二つのテーマについてお話しましょう。ひとつは「呼吸法」で、今ひとつはジャズ奏法の基本の「ファット・リップ奏法」(いわゆる唇を巻き込まないで吹く奏法)です。


1.呼吸法

管楽器の演奏、声楽に使われる呼吸法は、腹式呼吸です。通常男性はおなかを動かして呼吸していますが、女性は胸式呼吸です。サックスを吹くときはどんな時でも腹式呼吸ができるように努力するべきです。

それでは私がいつも教室でやっているやり方を説明しましょう。まず両手を上にあげて胸を思いっきり広げてみて下さい。さらに手を頭の後ろで組んで、空、または天井を見上げてください。

この状態が胸(胸郭)がいちばん開いた状態になります。自分の胸を両側から触って胸が広がっているのを確認してください。やり方がわかると別に手をあげなくても胸郭を開いたり閉じたりできるようになります。

呼吸法写真

今度は、胸郭を広げた状態で、おなかに息を入れていくようなつもりで息を吸っていきます。(といっても実際に力が入るのは胸なのですが…)これがなかなか難しいのです。

下の写真のように背中と腹に手をあてて、おなかが広がっていくの確認しましょう。また両脇腹に手をあててここが広がっていくのも確認しましょう。そのほかにベルトを使って練習する方法もあります。

ベルトをギューッとしめておいて、ベルトが広がっていくように息を入れていきます。更にもうひとつの方法は、ベッドに横になっておなかに手をあてて息を吸ってみて下さい。息をするときにおなかが前にせり出していくのがわかるはずです。

ここまでが息の入れ方ですが、本当に大事なのは息の吐き方です。息を吐くときにおなかがへこんでいくのはいけません。むしろおなかを、前後左右に張り出すような気持ちで息を吐いていきます。

胸から上は一段広げたら、息を吸っても入っても基本的に動かしてはいけません。一旦楽器を持ったら、どんな時でもこの腹式呼吸ができるように努力しましょう。

もう一度おさらいすると、まず胸を広げる、おなかに力を入れる、この時前後左右に息が入っていくようなイメージです。そしてそのおなかの前後左右に力を入れながら、勢いをつけないで(これがとても大事)静かに息を吐きだします。結論は、胸は常に広げっぱなし、息つぎの時以外は常におなかは力を入れているということになります。鏡を見たりしてよく練習して習慣化、無意識化しましょう。


2.ファットリップ奏法

最初にお断りしておきますが、これから説明するのはクラシック奏法ではなく、ジャズ奏法のオーソドックスといわれているファットリップ奏法です。  クラシック奏法では、やってはいけないことばかりを説明しますので、クラシック奏法を崩したくない人はやらないでください。また、クラシック奏法との両立、使い分けは不可能といわれていますのでご注意ください。  その代り、美しいクラシックサクソホンの響きとは また全く違う、艶のある輝きがある響かせる方、また息の音が混じったサブトーンや、ベンド奏法が簡単にできるというのがその特徴です。そのやり方の概略を簡単に説明することにしましょう。

ファットリップ人は、黒人のあの分厚い唇を指します。彼らは生まれつき良い音のする唇思っていますが、我々は訓練によってそれを得なければならないのです。具体的にはどうしたらよいのか?  まず写真左のように、いわゆるおちょぼ口をしてみましょう。恥ずかしがらずに口を思いっきり前方につき出すのです。そのとき下唇と下顎の先端の間に触ってみると丸い筋肉のしわが見つかるでしょう。これは俗にそのしわの感じから梅干しと呼ばれていますが、この梅干しの筋肉を発達させることがファットリップ奏法にはどうしても必要です。

つぎにそのおちょぼ口のまま口を開けて、サックスのマウスピースをくわえてみましょう。ファットリップ奏法ではリードに唇はとても広い面積で当たるので、極力浅く捕えるのがコツです。この状態で、さっき説明した腹式呼吸で中央E音を、ブーッと音を出してみましょう。壁などに反射させてよおく聞いてみて下さい。  コーンというか、ポーンどういうふうに丸い音に聞こえていたら成功です。ここから先述べることもクラシック奏法ではやらないことかもしれませんが、この中央E音を基準として上に上がっていくときに口の中の形をウの形からオの形に変えていきます。やってみるとわかることですが、そうすると上の音は音程がずり下がり気味になります。それを修正する意味で、楽器自体を口の中に押しつけるようにして圧力を加えていきます。

中央E音から下がるやり方を簡単に説明すると、EからDの時はウ〜オ、DからCの時はオ〜イと口の中の形を変えていきます。中央C音から下がる場合は、口の中をイ〜オと変化させつつ、マウスピースを徐々に抜いていくようにします。

 限られた誌面でそれも言葉による説明のみでどこまでわかってもらえるかわかりませんが、以上がファットリップ奏法の概略です。根本的な考え方はリードを歯で押すのではなく、唇の筋肉で広く支えるということです。次回は、タンギングと、ファットリップ奏法の具体的な練習の仕方を説明することにしましょう。

この講座の内容についてさらに詳しく知りたい方は私の著書、”Play the Alto sax、Play the jazz sax”(中央アート出版社刊)をご覧下さい。

参考文献(いずれもCDブックです):play-a-long series vol.54 /Jamey Aebersold jazz inc/Jamey Aebersold 、
Play the alto sax、Play the jazz sax/中央アート社刊/菊地康正著