サックスプレーヤーフルート奏者菊地康正

サックスプレーヤーであり、フルート奏者でもある(KOSE)こと菊地康正の公式ホームページにようこそ。音楽を楽しみたい方のためにサックス道場、フルート道場も主催しています。

菊地康正のサックス入門  vol.2

3.ファットリップ奏法
ファットリップ、その具体的練習法
4.タンギングとファットリップ奏法の関係
タンギングの練習
菊地康正のサックス入門  vol.3

3.ファットリップ奏法その音のイメージと実際の練習の仕方

 

まず図1を見てください。

これはサクソホンを吹いているときの口の形を表しています。

 上の歯はマウスピースに直接触り、下の歯はほんの少しだけ唇がかぶさっているのがわかると思います。サクソホンはリードに対して圧力を加えないと音が出ないことは皆さんもご存知と思いますが、その圧力のかかる方向はどの方向でしょうか?
 多分皆さんのイメージは方向2の向きに力を加えて、後はその加減で音程や音色を調整する…というものではないでしょうか?ファットリップ奏法では、実にいろいろな方向からリードに対して自由に圧力を加えます。簡単に説明すると・・・・・


★方向1.ハイトーン(フラジオレットとも呼ばれる)、倍音(オーバートーン)を使った高い音を出すときにはこの方向に圧力を加える。オーバートーンの練習については次回以降に。

方向2.通常の音域を、通常の音質(フルトーン)で吹くときには、主にこの方向に圧力を加える。

方向3.または4.息の混じった音(サブトーンと呼ばれています)や、ピッチベンド(トロンボーンのスライドのように音程を連続的に下げたり、もとに戻したりすること)のときにはかける圧力の方向をこの方向に変化させる。また、スタッカートの時に音程を安定させ、音色をはっきりさせるためにも使用する。(後述)

 まあそういわれてもぴんと来ない人が大半でしょう。まず、サブトーン、ピッチベンドを多用している奏者の音をCDを調べて聞いてください。思いつくままに書き出してみると、コールマン・ホーキンズ、ベン・ウェブスター、レスター・ヤング、ズート・シムズ、スタン・ゲッツ、ジョー・ヘンダーソン(テナーサックス)、ベニー・カーター、ジョニー・ホッジス、リー・コニッツ、ポール・デスモンド、アート・ペッパー(アルトサックス)など。

 ジャズ、ロック系の奏法では、人の声に近い存在感のある音がいい音とされているので、サブトーン(息のノイズ成分を含んだ音)がまず基本で、そのノイズ成分の割合をコントロールすることで、通常の張りのある輝きのある音から、ささやくようなくすんだ音までを表現するのだと私はいつも生徒に教えています。

 さて、オーバートーン〜通常の音(フルトーンと命名することにします)〜サブトーンの音質、そしてピッチベンドは下唇の力を入れる角度の違いでコントロールするのだと言うことが何となくわかってきましたか?次はその具体的練習法です。


 まず、マウスピースにリードを付けネックにつなぎます。本体にはつなぎません。ファットリップで、しかもできれば上の歯もマウスピースから離した状態で口にくわえ、ブーっとロングトーンを行います。何度も申しあげたとおり、胸は広げた状態で、決して肩は動かさず腹で支えて静かに息を出してください。
 つぎに徐々に下顎の力を抜き、両唇は前方につきだすようにして顎の力を緩めていくと、ピッチは少しずつ下がっていくはずです。このときに、たとえ苦しくともあくまでも腹式呼吸で、腹の力で息を支え続けるのがとても大事なことです。

 最初は少ししか下がらないと思いますが、慣れてくると通常のピッチからなめらかに2、3度は下げられるようにすなるはずです。改めてさっきの図1を見ながらリードに対する下唇の角度を、方向1から2,3の方向に変化させる気持ちでやってみて下さい。もっと具体的には言うと下唇を前方に突出し、それに対してリード面を手前に引き寄せる感じです。

 よ〜く考えてみて下さい。リードとマウスピースのすき間の曲線部分をフェイシングと呼びますが、これは直線ではなく丸いのです。リードを押さえる場所も、(深い、浅い)またはそのリードを押さえる角度もいろいろなやり方(下から上へ、下から斜め前方へなど)があって当然なのです。この事に気がつくと、サブトーン〜フルトーン〜オーバートーン・・角度の変化によって出せる一連の連続したものであるということがわかります。

 さて2、3度は下げられるようになったら、今度はネックを本体に装着して中央 E 音をまずピッチベンドして、半音以上下げた音でロングトーンしてみて下さい。その状態で最低音までゆっくり下がっていきます。唇の支える力と、腹式の息を支える力が通常よりも数倍必要になってくるのでとても苦しいと思いますが、頑張って下がっていきます。
 
 低音 G から下がカサカサした息のノイズの入った柔らかい音になっていたら成功です。 このような音をサブトーンというのです。うまく出ている場合は、図1の3または4の方向でリードを押さえているのに気がつくでしょう。この練習は唇の筋肉及び腹筋を鍛えるのにとても効果があります。中央 E 音から同じ吹き方で上まで上がっていきましょう。

 このときピッチはなるべく外れていた方がいい練習になります。できるようになったら、カサカサした息のノイズの入った柔らかい音のまま、今度は上から下まで正しい音程で吹く練習をしてみて下さい。とても含みのある味わいのある音でメロディを表現できるようになるでしょう。

 要するに、ピッチベンドもサブトーンも同じテクニックであり、リードに対して圧力をかける角度と息のコントロールであるということがわかるでしょう。この練習は驚くべき効果がありますが、何百人もの生徒と私自身の経験からそれは実証済みです。なおピッチベンド、サブトーンは通常より少し広めで多少硬めのリードの方がうまくいきます。
4.タンギングとファットリップ奏

法の関係

 つぎにタンギングについてを話してみたいと思います。音を出すにあたって大事なことは3つあると思います。それは音の出だし、伸びている間の音の質、そして終わり方…です。美しいはっきりした音の出だしには正しいタンギングが欠かせません。一般的にタンギングの正しい位置は次のようなものでしょう。

 舌の先端よりほんの少し(2、3ミリ上)でリードの先端に触れるというものです。 いけないといわれているのはリードの先端ではなく面で触ることです。またリード以外にマウスピースに同時に触るのも感心しません。

 実際に音を出す時の注意点としては、リードから舌を離すタイミングと同時に息を入れるのでは余計なアタックがついてしまうので、あらかじめ舌はリードに触れておき、腹に圧力をかけてはワンクッションおいてからtu- またはdu- と発音するつもりで、舌を素早く後に引くように注意して練習してみて下さい。
 それでは、テヌートと、スタッカートのエクササイズをやってみることにしましょう。メトロノームは、100から108位でやってみて下さい。@G から上は、音が細くなりやすいので極力口の中を広め”オ”の発音に持っていくように、そうすると音程は下がり気味になるので、下唇を前方に突出しマウスピース押し寄せるような感じで圧力をかけてください。

 もうおわかりですね?図1の方向3または4になります。A中音C はつぶれて締めすぎてしまいがちな音なので、少しだけ深めにくわえ、下唇にふんわりと乗せる気持ちで、口の中の発音は”イ”とういうふうにするのがいいでしょう。BF 位からマウスピースをかなり抜き気味にしてはっきりとした音でタンギングしましょう。C最低音域は、サクソホンの管が曲がる場所でもあり、抵抗を感じる場所ですがひっくり返らないように注意深く練習してください。

さて問題はスタッカートですね?まず確認しておきたいのは呼吸法の問題ですが、一発ずつ腹に力を入れるのは絶対にやめましょう。ロングトーンに比べるとより緊張した状態でお中にはずっと力を入れておきます。舌の動きだけでスタッカートを作らなければいけません。

 D高音A 位から、音をはっきり切って、しかも音程が変化しないように吹くのは大変困難ですね。ロングトーンや、テヌートの時と同じ奏法ではどうしてもシャクリが入ってしまいます。シャクリとは音程がずり上がる現象のことです。

 これを防ぐには、しつこいようですがやはり図1の方向3あるいは4の方向に力を入れつつ唇はテヌートやロングトーンの時に比べてもよりリラックスしてみます。つまり、ロングトーン、テヌートの時とスタッカートの時では、微妙にポジション、奏法を変化させるのです。各自このエクササイズをじっくりと味わって練習しましょう。MDなどに録音して聞いてみるのもいい勉強になりますよ。では次回は、実際の曲でのアーティキュレイションの付け方について取り組んで見ることにしましょう。どうぞお楽しみに。


 

この講座の内容についてさらに詳しく知りたい方は私の著書、”Play the Alto sax、Play the jazz sax”(中央アート出版社刊)をご覧下さい。